『 嗚呼、勘違い 』
− Unlucky Day −
ある日のこと。
十番隊隊長日番谷冬獅郎は、五番隊隊舎を尋ねた。
表向きは暇なので五番隊への書類を自ら届けるため。
本当は、幼馴染であり日番谷がずっと想いを寄せている少女・五番隊副隊長雛森桃の顔を見るためである。
普段なら自分の隊の副隊長に邪推されるのを嫌って、こんなにあからさまな方法で彼女に近づこうとはしないのだが。
どうも最近雛森が、上司である藍染と仲良さげで、日番谷としては気にくわない。
そろそろなりふり構っていられねぇ、と考えてのことだった。
●
「・・・何でおまえらがここにいるんだよ」
三席に藍染隊長・雛森副隊長とも今は手が空かないと申し訳なさそうに言われ、応接間に通された。
が、そこには既に先客がいた。八番隊隊長・京楽とその恋女房いや相方で同副隊長の伊勢七緒、そして六番隊副隊長・阿散井恋次だった。
「いやボクは、浮竹に頼まれて惣右介くんに本を借りに」
「私は、隊長を一人にしておくと何をしでかすか分からないのでお供に」
「俺は、雛森と同期会の新年会の打ち合わせに来たんスけど・・・」
ふう、と日番谷は息をついた。雛森達は相当忙しい様だ。
「俺は書類持ってきたんだが・・・やれやれ。しゃあねえ。少し待たせて貰う」
書類だけ席官に預けて帰ってもいいのだが、折角来たのだし、雛森の顔だけ見て行くことにする。
忙しい中、無理をしていないか気にもなるし。日番谷は恋次を詰めさせ、向かい合った応接用ソファに陣取った。
ズズー・・・(×4)
四人が仕方なく、運ばれてきた茶を啜ったその時。隣の隣の部屋、隊首室から声が聞こえてきた。
『なんだか・・・ちょっと怖いです・・・』
『大丈夫、すぐ済むから・・・ちょっとだけ、目をつぶっていなさい・・・』
ゴ フ ア ァ ッ !!
(×4)(←茶吹いた)
「なっ、ななな何だ今の声!?」
「い、今の聞いた? 七緒ちゃん」
「た、確かに藍染隊長と、雛森副隊長の声、でした、よね・・・!?」
「・・・っ!?」
ぼたぼたと口から茶がこぼれるのも構わず、四人とも動転して声のする方向を見つめた。
日番谷に至っては、言葉も出ない程驚愕している。
『・・・目・・・閉じてするものなんですか・・・? あたし・・・はじめてだからよく分からなくて・・・』
『・・・その方が緊張しないし、いいんじゃないかな・・・』
隊首室で一体全体、何が行われているのか。
四人が結論にたどり着くのは早かった。そして行動も同じ位早かった。
ガ シ ィ ッ !!
「
もがががー!(畜生てめえら放せー!!)
」
「(こそこそ)いけません日番谷隊長! 隊長同士の私闘は重罪なんですよ!?」
「(ぼそぼそ)抑えて下さい日番谷隊長! 大事なトコで邪魔を防げなかったなんて藍染隊長に知れたら、俺、後でどんな目に遭うか・・・!」(←元部下)
「(もしょもしょ)駄目だよ冬獅郎くん、イイ所邪魔したら・・・。馬に蹴られるってものだよ? ここは大人しく、成り行きを見守ろうじゃないか」(満面の笑みで)
襖を蹴破って押し入りそうな日番谷を、ナイスなタイミングで三人は拘束。
流石の天才児といえども、隊長一人と副隊長二人に押さえられては、どうしようもなかった。
(・・・もっとも、三人がその行動を取った理由は見事にバラバラだったのだが)
中で何が行われているのか気になり、日番谷をしっかりホールドしたままで一同は耳をそばだてた。
日番谷はもう涙目である。(合掌)
『・・・さて、もういいかな? 雛森君・・・』
『・・・あっ、ちょ、ちょっと待って下さい・・・! もう一度、心の準備を・・・』
「やっぱりコレってアレだよねえ・・・」
「しか、考えられないっスよね・・・」
「執務時間になんて、堅物に見えて藍染隊長も結構・・・」
「もーがーむーがーがーもがー!(やめろぉぉ! 雛森ぃー! 藍染あの
ム ッ ツ リ 野 郎 ー !
)」
そして再び奥から声が。
『大丈夫、すぐ終わるから安心して、雛森さん!』
「え!?」
「ん!?」
「あ!?」
「もが!?(!?)」
明らかに、雛森とは違う女性の声がした。
「今の、声って・・・」
「たしか烈ちゃんとこの・・・」
「虎徹副隊長じゃないっスか!?」
「なんで彼女がここに・・・?」
「むががががっ、むがーっ!!(一体何をやってるんだ虎徹までーっ!?)」
『ごめんなさい・・・大丈夫です、あたし覚悟を決めました・・・!』
『いいのかい・・・? 本当に怖いなら、そこまで無理することは・・・』
『いいえいいんです。だって折角・・・。お願いします!』
『がんばって! これで可愛いのがつけられるようになるから!』
「「「
・・・・・・へ? 可 愛 い の ?
」」」
何かがおかしい。
そう感じた三人が思わず、日番谷を押さえる力を緩めた時だった。
「むっ・・・ぶはあっ!」
いよいよマジにもがいていた日番谷は、虎徹の言葉が耳に入らないままに隙をついて抜け出すと、襖をなぎ倒して渦中の隊主室に転がり込んだ。
「まだ(
色々と
)無事か雛森!?」
「ひ、日番谷くん!? どうしたの?」
息せききった日番谷と、それを追った三人が眼にしたものは。
頬を染め、涙目をした雛森と。
片手に脱脂綿、片手に針を持った藍染と。
消毒用アルコールの瓶を手にした虎徹(勇)だった。
「・・・あ?」
「・・・・・・えっ?」
「・・・・・・・・・ええと?」
「・・・・・・・・・・・・どゆこと?」
「・・・どうしたんだい、みんなして」
「皆さんあわてて・・・一体何が・・・」
「京楽隊長、七緒さんに阿散井くんまで・・・何があったの?」
「「「「
こ っ ち が 聞 き た い
」」」」
とりあえず、四人の声と思いが重なった。
●
「この前、気まぐれで出した雑誌の懸賞で可愛い耳飾りが当たっちゃって」
「でもその耳飾り、イヤリングじゃなくピアスだったんだそうですよ。ほら、わたしのやつみたいに耳に穴を空けないといけないんです」
「あたし穴空けてなかったんですけど、どうしても身に付けたくて諦められなくて・・・だってレアなチャッピーのなんですよ!」
「で、雛森さんがわたしの所に相談にいらしたんです」
「雛森君から話を聞いた僕が勧めたんだよ。確か虎徹君が同じタイプのものを身につけていたし、四番隊だから消毒とか、空けてもらうのに安心だろうと」
「でもよく考えたら、わたしも自分で空けた訳ではなくてうちの隊長にやってもらったんです」
「卯の花隊長のお手を煩わせるのもちょっと気が引けたので、勇音さんに頼んだんですけど、人に空けるのは自信ないっていうし、自分でやるのは怖いし・・・」
「だって他人の耳に穴空けるのなんて、ある意味手術するより怖いですよ〜」
「そういうものかなあ・・・? まあとにかく、行き掛かり上、結局僕が実行することに」
「・・・なんですけど、いざ空けてもらおうとするとやっぱりちょっと怖くなっちゃって〜・・・!」
「雛森君、空けようとすると怖いって言うし、やめようって言うとやってくれって言うし。どうしたもんかと昼休みからずっとここで押し問答を・・・ってあれ? 大丈夫かいみんな?」
グ ッ タ リ 。
文字通りぐったりと力を無くして、今回の騒動に翻弄された四人は畳に伏していた・・・。
「な・・・何だそういう事かよ・・・アホらし。そうだよな藍染さんに限って真昼間から・・・」
「考えてみればそうだよね。大体最初に冬獅郎くんが過剰反応するからさ〜」
「俺のせいかよ!?」
「あのね雛森・・・わざわざ空けたくもないピアスホール空けなくても、ちゃんとイヤリングに加工してくれるお店があるわよ?」
「え、本当ですか七緒さん!」
「ええ。少し料金は取られるけど、デザインはそのままでやってくれるわ」
「そうか! 良かったねえ雛森君!」
「はい!」
「・・・ところで、君達は何をそんなに慌てて飛び込んできたんだい?」
「
・・・・・・イイエナンデモナイデス気ニシナイデ下サイ・・・・・・
」(×4)
素で尋ねた藍染に、そう答えるしかない一同だった・・・。
●
俺もう今日は出直してきます・・・と、恋次が自分の隊舎に戻り。
さっさと目的の本を借りた京楽と七緒が帰り。
俺も・・・と日番谷も疲れた身体を引きずりながら、十番隊隊舎の執務室に足を踏み入れると。
ゴゴゴゴゴ・・・と異様な霊圧を身にまとい、副官・松本乱菊が仁王立ちしてこちらを睨んでいた。
「た〜い〜ちょ〜う〜?」
「な、なんだ松本!? 仕事なら済ませて行っただろうが!?」
「そうじゃないです。たった今うちに回って来たんですけど、なんですかこの五番隊の請求書!」
ずいっと目の前に差し出された書面を見ると、確かに請求書である。
「んん!?」
よく見ると、隅っこに見慣れた文字で走り書きが。
『日番谷くんへ
悪いんだけど、うちも期末調整キビシイから、
壊した襖、弁償してね!
五番隊副隊長 雛森桃』
「襖壊したって、どういうことなんです?」
「それはだな、え〜っと・・・」
「期末調整で十番隊も財政厳しいのはよくご存知の筈でしょう! 納得できる理由じゃないと、ただじゃおきませんからね!!
・・・さ、
説明してください!
」
詰め寄る乱菊の迫力に気おされて、どう言ったらいいものか考えながら日番谷は思った。
・・・ああ。
今日は厄日だ。
Fin.
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