白藍染×雛森が前提なものの雛森嬢は出て来ないという話



『 煮ても焼いても喰えません 』
  − Just a piece of cake. −



「・・・で、どうなんだよ」

「どうってなにがですか」

ここは十三番隊隊首室・雨乾堂。春うららかな午後ですべて世はこともなし・・・と思いきや。
十三番隊隊長の浮竹十四郎と五番隊隊長の藍染惣右介が、表面上はにこにこと、しかし一皮剥けば不毛な腹の探りあいに勤しんでいた・・・。

「とぼけんなよお前〜。副隊長とのことだよ。雛森副隊長。どだ? イイカンジになったか? メシにぐらいは誘ったか?」

「そんな・・・彼女は信頼できる部下ですよ、色恋とかそういうのは別に」

「またまた〜。ハタで見てると仲睦まじいじゃないか。非番に仲良く歩いてたの見たってウチの清音が言ってたぞ。小椿も、冬の夜にお前ら二人が屋根の上に並んで座ってたって・・・!」

「あはは。非番に出かけたのは甘味屋巡りだから、あの後伊勢くん達が合流しましたよ。冬の一件も日番谷くんの誕生日に花火を見るためで、十番隊の二人がすぐに来たし」

しらっと問いを交わし、余裕の笑みまで見せる藍染に浮竹は内心歯噛みする。
この男と可憐な副隊長がそれなりの仲であるのは間違いない。・・・が、のらりくらりすんなりと藍染が質問をかわすうち、浮竹もなかばマジになりつつあった。

なんていうか、暇なミドル達である。暇であるのはいいことだが。

「むう・・・。じゃあ、本当に付き合ってないっていうのか」

「当然。好きや嫌いの恋愛沙汰云々よりも、任務の信頼関係のほうが強いんですよ、うちの隊は」

「信頼関係がなんだって?」

と、そこに闖入した第三者の声。入り口のから顔をのぞかせているのは、八番隊隊長の京楽春水。おそらくいつもの様に、特に用もなく遊びに来たのだろう。これで彼の副官が探しに来たら仕事をサボりに来た、ということだろうが。
ともあれこれでコンビがトリオになった。

「おう京楽。いいところに。実はな、藍染に雛森との関係について問い質しているんだが、なかなか口を割らんのだ」

「ほほう、惣右介くんと桃ちゃん? 確かにいい感じだよね〜」

「やめてくださいよ京楽さんまで。口を割るもなにも、僕と雛森くんは上司部下以外の関係はないんですから。『いい感じ』とやらに見えるならそれは我々五番隊が家庭的で信頼関係が強固だということでしょう」

にっこり。現世に行ったらさぞやオバちゃま方に人気が出るだろう・・・という作り物めいたスマイルで一刀両断。喰えない男である。しかも取り付くしまもない。

「な? ずっとこの調子だ。難敵だよ」

只でさえ少な目のHPがさらに少なくなったのか、浮竹は負けを宣言するかのようにバンザイした。勝ち誇ったように眼鏡が光った藍染を尻目に、京楽は何やら思いを馳せる。密かに勝利に浮かれる藍染が彼を見ていなかったのは、まったくの失態だった。

「へえ・・・。あ、そうそう、あのさあ惣右介くん」

「はい?」

「キミの隊の三席が雨乾堂の外で呼んでたよ。ちょっと行ってくれば?」

「は、はい。何だろう・・・行ってきます」

唐突ではあったが、断るわけにもいかない伝令に藍染は席を立つ。急いだのか、座布団の脇に伝令神機が置いたままだった。それを見て、京楽はにやり、物騒に笑う。

「いいかい浮竹。今からボクの言う通りにしてくれ」

「? うん?」

怪訝そうに京楽の思惑を聞いていた浮竹だったが、やがて彼も同じようなニヤリ顔へと変わっていった・・・。



 ●



「京楽さん、ウチの三席なんて居なかったですよ。一体・・・」

言われて雨乾堂の外には行ったものの、肝心の三席の姿は見えない。あちこち歩き回り、周囲に居た十三番隊員に訊ねても知らないという。

おかしいなあ、と頭をかきながら雨乾堂に戻ってくると、ミドルコンビが何かにこにこしている。にこにこ、というよりニヤニヤが正しいようだが。

「なんですか、二人で気持ち悪い笑いかたして」

「惣右介くん。訊きたいんだけどさあ、桃ちゃんってどこの出身だったっけ?」

「? ええと、確か潤林安ですよ」

京楽に訊ねられ、とりあえず藍染は答える。浮竹も身を乗り出して質問してきた。

「学生時代の成績は鬼道がズバ抜けてたんだよなあ」

「はい。あの頃から才能の成長には目を見張るものがありましたよ」

「そうそう、当時から有名だったもんねえ。有名といえば、彼女や六番さんの阿散井くん達が実習で危なくなった時、惣右介くんが助けたんだったね」

「ええ。市丸と一緒に。まだ学生だった彼らが巨大虚に襲われていたので、肝が冷えました」

「今でこそ吉良くんたちも立派な副隊長だが、当時はまだ今より若かったもんなあ。雛森も髪の毛お下げでさ」

「ははは、そうでしたね」

京楽と浮竹の質問にすらすら答えていた藍染だったが、京楽がなにげなく発した質問で、

「んで、二人っきりの時はなんて呼んでるの? 彼女のこと」

「は」

凍った。

「なっ・・・なんですか、いきなりっ」

「あれー? 惣右介くん、顔赤いよー? どうしたのかなー?」

思わずどもった藍染に、ここぞとばかりに京楽は追撃。やられた! と藍染は一瞬思ったものの、即座に形勢を立て直そうとする。

「・・・ごほん。赤くなんてないですよ。からかわないで下さい。別に、雛森くんと二人で居る時も我々は普通の上司部下です」

「へー、そーなの?」

「ほんとか? 藍染」

「そうです」

なおも追撃を試みる二人に、藍染は押し黙る。にたあ、と京楽の笑みが不覚なったのは敢えて見ないふりをした。

「いいこと教えてあげようか」

京楽はそう行って、袂から自分の伝神を取り出す、そして同時に、藍染の傍らにある同じ伝神を指した。

「この伝神さぁ、支給されたの同時期なんだよね。つまり僕と惣右介くんのは同機種。・・・メール見るのなんて、簡単なわけ

なあっ!!?

思わず自分の伝神を手にとった藍染だが、ハッと気付いたように、努めて冷静にそれをもとの場所に戻した。

「・・・いや、いやいやいや。騙されませんよ。僕はいつもロックをかけてますから、見られるはずが・・・はずが・・・」

藍染は強く首を振って否定したものの、その言葉が尻すぼみになっていくのを見逃してやる京楽ではない。

なんていうか、兎を狩るのに全力出してるライオンみたいだなあ・・・と浮竹はのんびり眺めていた。

「ああいう暗証番号って大抵、初期設定の『0000』のままか生年月日・・・惣右介くんは『0529』、もしくは恋人の誕生日にすることが多いね。・・・あのコは『0603』だっけ? あとは精精その逆番号か。それでも5通りしかないね」

「すごいな京楽、よく他隊の副隊長の誕生日まで覚えてるなー」

浮竹は少しズレた感嘆の声を上げる。京楽は実に得意げ(なにせ護廷内の女性の誕生日は全て覚えている)、そして対照的に、藍染はがっくりと肩を落としていた。

天国と地獄のズンドコってこういうのを言うんだなあ・・・と浮竹はまたものんびり眺めていた。(×ズンドコ → ○ドンゾコ)

「・・・そんな・・・いや・・・でも、ありえない・・・」

藍染はブツブツ言いながらなんとか伝神を見られたという事実を否定しようとしていた。本人は最早敗北に半分足を突っ込んでいるとは分かっていない。



「へ」

満足気に様子を見ていた京楽は、朗らかに、嫌味なぐらい朗らかに言い放った。

「伝神なんて見てないよ。カマかけただけ。・・・ねえ、どうして慌てたのかな?」

「!?」

とどめはクリティカル。今度こそ、藍染はばったりと床に突っ伏した。京楽は容赦なく、その頭をつんつんとつつく。敗者と勝者、明暗がくっきりと分かれた瞬間だった。

「んで? さっさと答えなよ。二人だけの時、本当は何て呼んでんの?」

「・・・・・・・・・『桃』、って、呼んでます・・・・・・」

藍染のうめき声が僅かに聞こえ、京楽は勝利のガッツポーズ。浮竹とハイタッチ。藍染はしくしく泣いていた。自業自得だが。自業自得ではあるが。

・・・煮ても焼いても喰えない人ってのは往々にして上手がいるものなんだなあ・・・と、浮竹は心中背筋を寒くさせながら思ったという・・・。


 (終わっとこう)


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