【前回のあらすじ】
  十番隊厨房で泡を吹きながら失神していた恋次。
  調査に乗り出した日番谷と乱菊は床に残されたメッセージを発見した。
  カレーのルーで書かれた『もり』が意味するものは何か・・・?
  二人は恋次が十番隊に来た理由を探るべく、朽木隊長のもとを訪れた。



『 十番隊事件帳・甘い誘惑 2 』
第二章 〜 あのカレーを食べさせたのは彼? 〜

 



  ○六番隊隊舎執務室(14:30PM)○



「恋次が兄の隊舎に向かった理由、か・・・?」
六番隊隊長・朽木白哉は『自分の副隊長が他隊の厨房でぶっ倒れる』という不名誉な事態にたいそう不機嫌そうな様子だった。

「十番隊に書類の催促に行かせた筈だが」
「あーーっ!! そうだった! 六番隊に回す書類の締め切り、昨日だったわ・・・!!(汗)」
「松本てめえって奴は・・・ッ!(脱力)」
いつものこととはいえ、副隊長の抜けっぷりに日番谷はガクッと肩を落とした・・・。

「・・・・・・・・・(フゥ)。まあいい、書類は後でも良いからきっちり調査を頼む。私の部下の不始末、私がつけるのが筋であろうが、兄の隊舎内での事件で兄が調査をすると言うのであれば、口を出すわけにもいかぬのだろうな」
プライドの高い彼のこと、この事件に関しては自分で落とし前をつけたいのだろうが、日番谷も負けず劣らずプライドが高い。
「そういうこと、だ。お心づかいは感謝しときます、朽木隊長」
ニヤリと自信ありげに笑う少年隊長に、朽木隊長は珍しく苦笑いをした。
「せめて協力は惜しまん。何でも訊くがいい」
「・・・じゃあちょっと質問を幾つか。今日の午後、朽木隊長は何を?」
「私は五番の雛森副隊長の来訪をうけて、彼女が持参した書類を処理していたが」
「それは確かです。処理が終わるまで雛森副隊長や僕や他の隊員も同じ執務室にいましたから」
部下の理吉がそう口を出した。どうやら犯行時の朽木隊長のアリバイは立証されたらしい。
「・・・雛森が用事を終えて、この隊舎を後にしたのは?」
「13時18分だな。帳簿に客の来訪時刻と退舎時刻が書いてある。来訪時刻は・・・13時04分。昼休み明け直ぐに来たと記憶しているが、間違いは無い」
「そうですか・・・何か他に思い出せることは?」
「他に、か・・・? そういえば、雛森副隊長に茶菓子として水ようかんを出したのだが、それを大層気に入った様子だったので幾つか持たせた」
「あ、桃が持ってきたあの水ようかん、朽木隊長から頂いたものだったのね。やった、高級水ようかーん♪」
「水ようかんはどうでもいいっての。・・・ん? 水ようかん・・・?」
「どうかしたのか?」
「隊長?」
何か思い当たった様子の日番谷に朽木隊長と乱菊は訊いたが、
「水ようかん・・・十番隊舎・・・あいつの午後の行動・・・」
日番谷はぶつぶつと、独り言を繰り返していた。
「隊長ってば!」
「ん!? あ・・・ああ、済まねぇ松本、ちょっと考え込んじまった。・・・それじゃ朽木隊長、俺らそろそろ失礼します」
「いや、こちらの馬鹿な部下が迷惑を掛けて申し訳なかった」
「いえいえ。阿散井を気絶させた犯人は俺達がふん縛りますから、そん時はきっちり朽木隊長が犯人を尋問して下さい」
「そうさせて貰おう」

こうして日番谷と乱菊は六番隊執務室を後にした・・・。




  ○六番隊隊舎廊下(14:42PM)○



朽木隊長の執務室を出てすぐ。
「・・・」
「どうしたんですか?」
押し黙って眉間の皺をさらに深くしていた日番谷に、怪訝そうに乱菊は訪ねた。
「・・・なあ松本、雛森は水ようかんを貰って、まっすぐ十番隊に来たんだよな?」
「だと思いますよ? 六番隊を出たのが13時18分・・・」
「で、うちに来たのが10分後の13時28分だな」
「通常15分はかかるところを、あの子のことだから、水ようかんが冷たいうちにと、急いで来たんでしょうね。そんなに急いでたんだから、厨房でわざわざ何かを仕込んでからあたし達に合いに来る余裕はない筈です」
どうして日番谷は、彼の大事な幼馴染の行動を気にしだしたのか。まさか雛森を容疑者として見ているのかと乱菊は動揺し、念の為、付け加えておく。
「桃を疑ってるんなら、それはありえませんよ? 隊長」
「・・・そうじゃねえ。俺が言いたいのは雛森に関してじゃねえよ」
「じゃあ誰のことを疑ってるんです?」
「藍染だ」
「え!?」
「五番隊は通常、執務室は隊長と副隊長しか詰めていない。うちと同じにな。その副官の雛森が昼休み後に六番隊に出かけて、その後十番隊に来た。その間、五番隊に帰っていない」
「あ!!」
「分かったろ?」
「はい。・・・藍染隊長のアリバイを、誰も証明できない・・・」
「・・・と、いう訳だ。しかも今は半期締め直前。仕事に集中するために余計な来客や部下からの書類を予めシャットアウトする様に命令していたとしても、おかしくはない。つまり五番隊執務室は外部の人間にとっての完全な密室だ。そして片割れの雛森が外出していたとなると・・・アリバイを証明できないという点で、藍染は犯人の可能性として浮上しうる」
「可能性、か。・・・確かにそうですね・・・」

――――― 例え1%であっても、可能性がゼロでない限りは疑わなくてはならない。ましてや被害者の恋次は以前五番隊で藍染の下で働いていた。周囲の人間も気がつかない何らかの確執が存在すると仮定すると、可能性は1%よりは高いものになりはしないか? 日番谷はそう考えていた。

「アリバイから出しただけだから、まだ断定はできねえけどな。奴と阿散井のつながりも、元上司と部下ってだけで最近はつきあいも薄いらしいから、現段階で納得できる理由も全然想像つかねえし」
「・・・そうですね」
「ちょっと俺は五番隊に行って藍染にカマかけてくる。松本は改めてウチの隊内での聞き込みと、浮かんだ容疑者のアリバイ・証拠を調べてくれ」
「イエス・サー!」
上司の命に乱菊はどこで覚えたのかビシ、と敬礼して答えた。
そしてそれぞれ、反対の方向に勇んで歩み始めた。事件が動き出した確かな感触を感じながら。



  ○五番隊隊舎執務室(15:07PM)○



「藍染はいるか? 日番谷が火急の用件で参じたと伝えろ」

眼光鋭く受付の隊員に告げた日番谷は、恐れおののく平隊員に案内されて五番隊執務室に案内された。
繁忙期で必要最低限以外の来客や書類はシャットアウトしている筈だったが、日番谷が来たと知った藍染は余りにもあっさりと中に入るよう促した。
それが、かえって日番谷の疑いを深めた。
「忙しいところ悪いな」
「いやいや。他ならぬ日番谷くんとあればね」
にこにこと普段の穏やかな笑顔を崩さない藍染だが、日番谷の険しい表情の意味を察したのか、
「雛森くん、悪いんだけどお茶淹れて来てくれないかな」
と、副官に促した。今日は新茶を頼むね、と付け加えて。新茶は淹れるのに時間をかける。つまり人払いだ。

二人だけになった部屋で、日番谷は率直に今までの経緯と藍染のアリバイの弱点を話し、相手の出方を待った。
「成る程、ね。確かに僕のアリバイは誰も証明してくれそうにない」
「客観的な状況ではそういうことになる」
「もっと面と向かって言っていいよ。『主観では僕を疑っている』、と」
疑われているにしては鷹揚な態度の藍染は、目を細めるときっぱりと言い放った。
「・・・・・・そうは、言ってねえけど・・・」
「言っているさ、君の目がね。僕を疑うならそれはそれでいい。ただし、僕もひとこと言っておこう」
「何だ」
「『客観的な状況では日番谷冬獅郎も犯人に成り得る』。・・・そうだろう?」
「・・・ッ!」
「君の今までの話を総合すると、犯行時間と推測される昼休みから午後までの間、君は松本君と執務室にこもりきりで仕事をしていた。君のアリバイを証明するのは、副官である彼女一人。・・・そしてその証言は、第三者にとって信用に足るものなのかい?」
「・・・まあ、な。そうだな。俺も容疑者として疑われ得る」
ち、と心の中で舌打ちして、日番谷は藍染の意見を肯定した。蛇を藪から追い出すつもりが、自分の足元を蛇に締め上げられてしまったのだ。だが、さすがは天才児、といったところか、日番谷はひるまず続けた。
「お前のいう事はもっともだ、藍染。・・・だが、副官一人の証言が信用に足らないという意味では、例え雛森がこの執務室を離れていなかったとしても、お前のアリバイも揺らぎ続けることになるな」
「・・・そういうこと、だね」
「やっぱりお前が犯人である可能性は今のところ消えないんだよ。足場が揺らいでいるのはお互い様だ。・・・俺はこれから、誰にも文句のつけられない証拠と共に犯人を挙げてやる。犯人が例えお前だったとしても、言い逃れできないような証拠と共にな」
「・・・楽しみにしているよ、名探偵。せいぜい君が犯人でないことを祈っている」
不敵に笑む藍染に、日番谷は短く邪魔をした、と告げて部屋を出た。

廊下では、ちょうど雛森が茶の乗ったお盆を持ってこちらに歩いていた。
「邪魔した。じゃあな雛森」
「え? あ、あの、ちょっと日番谷くん・・・!?」

どすどすと苛ついた足音で去っていく日番谷の背中を、雛森は不安そうに見送った・・・。




  ○十番隊隊舎執務室(15:56PM)○



「ただいま、戻りました〜」
「おう、お疲れさん」
調査に出かけていた乱菊を、先に戻っていた日番谷は労った。
「あ〜疲れた。でも大分新情報が分かりましたよ」
「そうか、でかしたぞ松本!」
「新情報は大きく分けて三点。まず、カレーの出所から。実は今日、あたし達二人の仕事が長引きそうだと七席の竹添が気を利かせて、夜食用カレーを作っておいてくれたんだそうです」
「・・・! 竹添のカレーか・・・!」

十番隊七席・竹添幸吉郎(原作で2コマのみ登場)。彼の作るカレーは絶品として護廷十三隊で有名である。
噂では山本総隊長がそのカレー食べたさに竹添を一番隊に引き抜こうとしたところ、乱菊をはじめとする十番隊員の猛反対にあい、泣く泣く断念したとかしないとか・・・。

「で、そのカレーなんですが、仕上げの煮込みに入って後は野菜と肉のうまみをじっっっっくり引き出すだけ、って状態の時に、竹添がたまたま席を外したんだそうです。些細な用件で部下に呼ばれて、鍋を厨房に置いたままで」
「席を外した・・・そうか! その間に何者かに鍋ごとカレーを奪われたんだな」
「ご名答。そして竹添が厨房を空けている間に、桃の悲鳴が響き・・・」
「・・・俺達が倒れた阿散井を発見した、という事か」

「そして二つ目。うちの隊員全員に話を聞いたところ、ちょうど竹添が部下に呼ばれた直後、厨房の近くを通る人影を見た者がいました。ほんの少し、ちらりと、まっ白い羽織が視界の端に映った程度らしいですが」
「白い羽織・・・どこかの隊長だな・・・。タイミングから見て、そいつが犯人と見て間違いないな」

「ええ。そして最後の三点目。事件後、厨房を調査した部下からの報告で、こんなものが厨房のゴミ箱から出てきたそうです」
乱菊は袂をごそごそと探ると、ビニール袋に入れられた調味料の小瓶を取り出した。中身は空だ。
「検察(←技術開発局?)に出して指紋を調べられるように、ちゃんと袋に入れておきました」
「なになに・・・『ガンディーさんもビックリ☆サッとひと振りで仰天のレッドホットチリスパイス』・・・カレー用のスパイスか? なら竹添が使い切って瓶を捨てたんだろ」
「あたしもそう思って竹添に聞いたんですよ。でも今回そのスパイスは使った覚えはないそうです」
「犯人がカレーに混入したってことか・・・? そうか、それで辛くなったカレーを・・・」
「書類の催促に来た恋次が・・・」
「多分、図 々 し く つまみ食いでもしようとしたんだろうな」
「でしょうね。全く恋次の奴、我が十番隊の誇る絶品カレーをちょろまかそうとするなんて・・・(怒)」
「・・・まあ、その図々しさが災いして、スパイスがタップリ入ったカレーを食い、拒否反応で気絶した、と。よし、これで大分、謎のピースが埋まってきたな。肝心の犯人についてはまだまだだが・・・。・・・ん? 何だこの水滴は」
「水滴?」
「ほれ、スパイスを入れたビニール袋の中に、水滴がついているだろ?」
「ホントだわ・・・。どうやら瓶が水で濡れていたようですね。でも何で・・・?」
「今の段階じゃ何とも言えないな。・・・とりあえず、判明した事実を併せて紙に整理してみるか」



  @十番隊七席・竹添が今晩の残業に備えてカレーを作る

    ↓

  A竹添が部下に呼ばれて厨房を離れる

    ↓

  B白い羽織を着た何者か(隊長職にある者?)が厨房に侵入、カレーにスパイスを一瓶混入?

    ↓

  C阿散井が十番隊に書類を届けに来たついでに激辛カレーを知らずにつまみ食い、昏倒
   (意識を失う直前、『もり』のメッセージを遺す。犯人がそれに気付かなかったか、それとも
    気付いていてもあえて放置したのかは不明)

    ↓

  D何者かがカレーを鍋ごと持ち去る

    ↓

  E雛森が阿散井を発見



「・・・問題はBの犯人とDの犯人が同一犯かどうかだな」
「そうですね。同一犯だとすると、恋次は犯人と鉢合わせたって事になりますか・・・?」
「その可能性が高い。阿散井が意識を回復したら、即行で話を聞く必要があるな」
「BとDが別々の犯人だった場合は?」
「共謀しているか、それとも全く独立した犯行かはまだ分からないが・・・とにかくBの犯人が隊長職にある人間だって事は判明した。よし、これから隊長連のアリバイを徹底的に洗うぞ、松本」
「もうやってあります」
「へ?」
ぺらりと乱菊はメモを取り出して、
「だから、もう隊長全員のアリバイは洗っておきましたってば、ホラ」
得意げに捜査結果を見せた。確かにそのメモには、犯行予測時刻に十三人の隊長が何をしていたかが詳細に記してある。
「・・・・・・・・・」
「隊長? どうしたんです?」
せっかくのメモを見ずに、自分の顔を凝視する日番谷に、乱菊は怪訝そうに訊ねた。
「・・・いや、お前も中々やるな、と思ってな」
「見直しました?」
ふふん、と胸を反らす乱菊に、日番谷はまあな、と笑ってみせた。
「・・・さて、隊長全員のアリバイはどんなだ・・・?」



  ○各隊長の犯行推定時刻の行動○
  ・(?)がつくものは複数の目撃情報が得られなかったことを示す

  一番隊:通常通り隊舎で各隊からの書類を決裁(各隊員以下複数の証言を確認済み)→シロ

  二番隊:刑軍の業務で現世へ(移動記録確認済み)→シロ

  三番隊:午前中、あたし(乱菊)にしばかれて(原因:セクハラ)綜合救護詰め所で治療中→シロ

  四番隊:綜合救護詰め所で十一番隊の治療に専念(?)→シロ(?)

  五番隊:執務室にこもりきりで仕事(?)→?

  六番隊:執務室にこもりきりで仕事(隊員複数の証言を確認済み)→シロ

  七番隊:カレーに近寄れない(イヌだから)(※嗅覚が敏感すぎる)→シロ

  八番隊:魂送業務で現世へ(移動記録確認済み)→シロ

  九番隊:一番隊に書類を提出(一番隊員他の証言を確認済み)→シロ

  十番隊:執務室にこもりきりで仕事→シロ

  十一番隊:虚退治直後のため隊員のほとんどを率いて綜合救護詰め所で治療中→シロ

  十二番隊:技術開発局にこもりきり(局員の証言を確認済み)→シロ

  十三番隊:風邪で休み→シロ



「松本」
「はい?」
「(三番七番あたりはあえてツッコまないでおくとして、)卯ノ花隊長に『?』がついてんのは何でだ?」
「ああそれは、十一番隊の治療でゴタゴタしてて、隊長がどんな時間に何をしてるか誰も把握できてなかったんですよ。まあ一応書いてはおきましたけど、卯ノ花隊長は殆どシロと考えていいでしょうね」
「成る程な・・・こうして挙げてみると、怪しいのは藍染、俺の二択になるな・・・」
「・・・え!? ちょっと待ってください」
しげしげとメモを見つめて呟いた日番谷に、乱菊がぴくりと反応した。
「何だ?」
「どうして日番谷隊長までが捜査線上に上がるんですか!?」
「仕方ないだろう。俺もずっと仕事中で、アリバイを証明するのに必要な他の隊員達の目撃証言が無い。捜査している立場の人間だからって、条件を甘くするわけにはいかないんだよ」
「あたしがいたじゃないですか! 午後じゅうずっと、あたしが一緒の部屋で仕事してたじゃないですか!」
「・・・分かってくれ、松本。副官の証言一つきりじゃ、有効なアリバイ証明にはならねえ」
「だって・・・隊長はそれでいいんですか!? 恋次を気絶させてあたし達の大事な夜食用カレーを盗むような(←彼女にとっては後者がより重要)卑劣な犯人候補に、誰よりも頑張って捜査をしている日番谷隊長が挙げられるなんて・・・あたしは納得いきません!」
「松本・・・お前・・・」
「あたし、口惜しい・・・」
乱菊は余程口惜しいのか、下唇を噛み締めて俯いてしまった・・・。

そんな時、とんとんと部屋のふすまを叩く音が。
「こんにちは、日番谷隊長はいらっしゃいますか?」
「 「 卯 ノ 花 隊 長 ! ? 」 」

ふすまを開いてみると、そこには四番隊隊長・卯ノ花烈の姿が。
まだ十一番隊の手当てに忙しいのか、薬品やらで羽織は汚れたままだ。
「阿散井副隊長が意識を取り戻したのでご報告に参りましたの」
「本当ですか!」
「よっしゃ! これでガイシャ本人から直接話が聞ける! 行くぞ、松本!」
「はい!」
威勢のいい声とともに、二人は執務室を飛び出した。
その場に残された卯ノ花は、
「あらあら・・・置いてきぼりにされてしまいましたわね」
そう言って自らの斬魂刀を取り出し、鞘から出した『肉雫口妾(みなづき)』の背に乗って空へと舞い上がった・・・。



  ○十番隊隊舎廊下(16:08PM)○



「ね、隊長」
「何だ」
四番隊隊舎に早足で向かう途中、乱菊は日番谷に訊いた。
「最初に恋次を四番隊に運びに行った時、どうしてあたしを現場に置いていったんです?」
「どうしてって・・・誰もいない間に犯人に証拠を改竄されたら困るだろうが」
「誰かが現場を守ればよかったんなら、桃でもよかった筈でしょう? 桃を疑ってたんですか?」
「・・・そういう訳じゃねえ。ただ、俺は絶対にお前が犯人だとは思わなかった。だからだ」
「どうしてあたしが犯人じゃないって断言できるんです?」
「卯ノ花が推定した時間前後は、ずっと俺と仕事してただろうが」
「実行犯じゃなくても、誰かと共謀してたとしたら?」
「厳密に言えばその可能性も否定できないんだろうな。まあ、それは俺が犯人か犯人の一味だった場合にも言える事だが。でもな、少なくとも今俺はお前が犯人とは思っちゃいねえよ」
「証拠もないのに?」
「ばかやろ」

ばか? と言われてムッとした乱菊に、眉間に皺を寄せたいつもの苦笑いをして、
「証拠なんて無くっても、一つぐらいは信じたいものがあんだよ」
そう、日番谷は言い切った。

「・・・・・・・・・」
「・・・松本?」
「隊長」
「ん?」
「あたしも、何の証拠なんて無くても、隊長のこと信じますからね。この先何があっても」
「・・・おう」
ニッ、と、日番谷は笑った。
「任せとけ」
ニッ、と、乱菊も笑った。
「任せます」




  ○四番隊綜合救護室(16:28PM)○



「スンマセン、日番谷隊長。俺、ご迷惑おかけしたみたいで・・・」
当の被害者・恋次はまだ青い顔をしていたものの、ベッドの上に起き上がっていた。

「まあ、体に異常が残らなくて何よりだ。だが原因は突き止めさせて貰うぜ。阿散井、お前は一体ウチの厨房で何をしていた? 順を追って話してくれ」
「え〜っと・・・確か・・・十番隊の執務室に書類を貰いにいく途中・・・」
「ふんふん。朽木隊長の言ってた通りよね」
「厨房に面した廊下を通りすがろうとして・・・」
「通りすがろうとして、それから?」
「何か視界の端っこに・・・厨房の中にとてもいいものが見えた気がして・・・中に入ったんです」
「いいもの?」
「うう〜ん・・・思い出せねぇ・・・何だったっけか・・・?」
「頼む阿散井、思い出してくれ!」
「そうよ! 男は根性! 根性で思い出すのよ!」(←無茶おっしゃる)
「根性っても乱菊さん・・・。・・・ん? んんっ!?」
考え込んで視線を彷徨わせた恋次は、乱菊の胸元のあたりに眼をやると、猛然と反応した。

「「思い出した(か)(の)!?」」
「・・・ 盛 り ・・・」
「「・・・・・・ は い ?」」
「・・・そうだ盛りだ! 思い出したぜ! 厨房に乱菊さん並に 特 盛 り の ル キ アがいたんだ!!

「 「 ち ょ っ と 待 て え え ぇ ! !(汗)」 」

「何スか? 確かに俺は特盛りになったルキアを厨房で見つけたんです! 間違いありません!」
明らかにおかしいだろソレ!! ルキアって朽木隊長の妹だろ!? 確か今現世で行方不明になってる筈の!! 何でそんな奴が十番隊の隊舎、しかも厨房にいるんだよ!?」
「しかも彼女、有名な 洗 濯 板 じゃないの!(←失礼ですよ乱菊さん) どうしていきなりあたし並の盛りになるのよ!? あたし信じない! 何の努力もなしにあたしに並ぶだなんて 間 違 っ て る ! 断じてあたしは信じないからね!?」(←何の意地ですか乱菊さん)



  ○同時刻・現世○

・・・はくしょん!!
「ルキア、大丈夫か? 風邪でもひいたか?」
「い・・・いや。何でもない、一護・・・(何なのだこの悪寒は・・・)」



  ○ふたたび四番隊綜合救護室○


「だって、俺は見たんスよ! ルキアが俺に微笑んで・・・近寄ってきて・・・で、そっから記憶が無いんです。でもあれは確かにルキアだった・・・。信じてくださ〜いぃ・・・(涙目)」
「わ・・・分かった分かった。信じる、信じるからその眼はやめろ。・・・で? その『特盛りになった朽木隊長の妹』を見てお前は『もり』って床に書いたのか?」
「書いた覚えは特に無いんスけど、とにかく夢のような盛りでしたから・・・(←夢うつつ)、無意識に書いちゃったかもしれません(エヘッ☆)」

「「 結 局 『 盛 り 』 が ビ ン ゴ か こ の 野 郎 ( 怒 ) 」」

あんまりといえばあんまりなダイイングメッセージの真相に、二人は肩を落とした・・・。
「・・・しゃあねえ、洗い直しだ。行くぞ松本」

「は・・・はい。じゃあ恋次、とりあえずはお大事にね」
「あ、ありがとうございます。これから卯ノ花隊長も回診に来て下さるらしいんで、多分すぐ治ると思います」
「卯ノ花隊長もお忙しい方だから、アンタもあんまり迷惑かけて怒らせちゃ駄目よ? 恋次」
「大丈夫っスよ。卯ノ花隊長は朽木隊長や藍染隊長と違って寛大ですから」
「えー? 藍染隊長ってそんなに厳しい人なの? そうは見えないけど」
「人は見かけによりませんよ〜。俺が昔五番隊にいた頃、雛森と世間話をしてんのを見られた日にはもう・・・(泣)」
「藍染隊長、雛森にご執心だものねぇ・・・。そりゃ苦労するわ」
「それに比べたら卯ノ花隊長は癒しの女神様みたいなもんですよ。あーあ、俺、治って朽木隊長のトコ戻んないでずっと入院してようかな・・・」

何気なく交わされていた乱菊と恋次の会話。
「・・・・・・・・・!」
それを耳に入れていた日番谷の目が、途中、密かに輝いていた・・・。
「・・・いいかげんに行くぞ、松本。じゃあな阿散井、大事にな」
「あ、どうもっス」
「え、あ、あの、隊長? 待って下さいよ〜」


パタン・・・


恋次の病室を出て。
隊長たちのアリバイ探ったのは無駄だったのかぁ・・・と脱力する乱菊に、日番谷は眼光鋭く訊いた。
「・・・どう思う、松本」
「どうって・・・。隊長の言った通り、情報を洗いなおすしかないでしょ? 『もり』のメッセージは『盛り』だった訳だし、恋次の言った通りに朽木隊長の妹さんが一枚かんでるって事は、これから十三番隊に行って・・・彼女が戻っていないか確認して・・・」
「いや、十三番隊に行く必要はない」
「どういうことです?」
「分かったんだよ、真相が。おそらく・・・阿散井の記憶は偽物だ。当人は信じきっているが、本当にあった事じゃない」
「はあ!? 偽物って、幻だとでも言うんですか? そんな、バカな・・・。幻じゃ、『盛り』のメッセージも全く役に立たないじゃないですか・・・」
「いいや、阿散井が見たのが全くの幻でも、そのメッセージは充分役に立つさ」
「?」
さっきの脱力した姿とはうってかわって、確信に満ちた表情の日番谷の真意が掴めず、乱菊は困惑を隠せない。
「説明してる時間が惜しい。急げ松本、大至急、今回の関係者全員をこの病室に連れて来てくれ!」
「は・・・はい!」


「証拠は揃った。・・・十番隊隊長・日番谷冬獅郎の名に懸けて、俺は真実を暴く!!」(←決め台詞のつもり)





 前へ 次へ


     HOME
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送