【前回までのあらすじ】
  十番隊厨房で泡を吹きながら失神していた恋次。
  日番谷はアリバイの根拠から自分も犯人候補に挙げられる中、乱菊と共に真相究明に奔走する。
  恋次が倒れていたのは、夜食に密かに用意されていたカレーを盗み食いしたのが原因と日番谷は推測するが、
  意識を取り戻した当の恋次の記憶は、犯人によって何らかの方法ですり替えられていた。

  消えたカレーの行方、そしてダイイングメッセージ『もり』に込められた真の意味とは・・・?
  犯人を言い当てるべく、日番谷は関係者全員を恋次の病室に集めた・・・。

  果たして恋次を気絶させたのは誰なのか?
  そして十番隊の大事な夜食カレーの行方は果たして・・・?
  少年探偵・日番谷と、その助手・乱菊によって、今、真相が白日の下に曝される!



  ○四番隊綜合救護室(16:43PM)○



日番谷の呼びかけで、恋次の病室に今回の関係者である面々が急遽集められていた。

  今回捜査を指揮した日番谷冬獅郎。

  捜査を補佐した松本乱菊。

  被害者の阿散井恋次。

  第一発見者の雛森桃。

  雛森の上司・恋次の元上司でアリバイが不十分な藍染惣右介。

  恋次の現上司である朽木白哉。(←ちなみに辛い物好き)

  そして恋次の回診に来ている卯ノ花烈。

夕日が差し込む病室内で、以上の七名が固唾を呑んでいた・・・。



『 十番隊事件帳・甘い誘惑 3 』
第二章 〜 あのカレーを食べるのは彼 〜

 



「・・・どうやら、真犯人をつかんだようだね、日番谷くん。自信はあるのかな?」
自身、アリバイの不備から容疑者に挙げられた藍染は、焦る様子もなく日番谷に訊ねた。
同じく犯人である可能性を消せない日番谷だが、自信ありげにニッ、と藍染を一瞥した。
「勿論だ」
力強く応じると、乱菊も加勢するように胸を張る。
「ご心配なく藍染隊長、我らが十番隊にお任せください! ウチの隊長、小さくてもやるときはやるから」
小さいは余計だ(怒)

むっとしながらも堂々とした日番谷と乱菊に、朽木隊長が声をかけた。
「二人とも、頼むぞ。不肖の部下とはいえ、こ奴も誉れある六番隊の副隊長だ。せめて何者に倒されたのか割り出さねば、沽券にかかわる」
「不肖って・・・ヒデエっす朽木隊長・・・(泣)」(←勝手にカレーつまみ食いした不肖の副隊長)
「まあまあ。大丈夫だよ阿散井くん、きっと日番谷くんが全て解明してくれるよ! ね、そうですよね卯ノ花隊長!」
「ええ、そうね・・・。きっと大丈夫ですわ」


それぞれの思いが交錯する中、日番谷は落ち着いた声で今までの状況を説明した。

「・・・以上だ。よって犯人は、カレーにスパイスを混入し、阿散井を気絶させ、なおかつそのカレーを鍋ごと盗んだことになる。・・・そして、俺の睨んだところ、これらは全て同一犯の犯行だ。・・・何せ、全てを一時に行った方が犯人にとって都合がいいからな・・・」
「それで・・・その犯人は?」
ごくりと唾を飲み込みつつ、雛森が訊いた。


「犯人は・・・」
暗い部屋に差し込む夕日を背にした日番谷は、ゆっくりと腕を上げ、ある人物の前でぴたりと指さした。
その小さな指先で示された人物を見て、全員が戦慄を覚える。
「信じたくなかったが・・・あんただ」
逆光で日番谷の表情は誰にも分からない。あるいは、泣いているのかもしれない、と、乱菊は思った。
何せ、この場にいる誰もが『この人であって欲しくない』と思う人物が挙げられたのだから。

「ふ・・・」

指された人物 ――――  犯 人 ・ 卯 ノ 花  烈 が、僅かな沈黙の後に微笑む気配がある。

全員の背中に、冷たい汗が流れた。

「ちょっと待つんだ」
沈黙を破るように、藍染が抗議の声を上げた。
「自分が何を言ったか分かっているのか? よりにもよって医療班の最高責任者である四番隊隊長殿を犯人に挙げるだなんて」
「分かっているさ。・・・俺だって信じたくはない。だが、証拠は嘘をつかないんだよ」
「どんな証拠なのでしょうね?」
いつもと変わらぬ、いやいつもに増して穏やかな微笑を湛えて、卯ノ花は聞いた。声には怒りの色も焦りの気配もない。ただ、落ち着いている。
「・・・しらを切るつもりか?」
「さあ・・・明確な証拠がないのに頷いて、冤罪を負う理由はありませんから」
「そうか・・・じゃあ説明させてもらおう。・・・ひとまず、俺が推測した卯ノ花隊長の行動を話させてもらうが、いいか?」
「・・・どうぞ。仮定でものを言うのはご自由に」
「じゃあ俺の『仮定』を。
・・・まず、卯ノ花隊長、貴方は今日の午後、十番隊隊舎に来た。そして厨房でカレーを見つけた」
「・・・・・・・・・」
「十番隊が護廷に誇る『絶品カレー』。貴方はそれを何らかの事情で我が物にしようと思い立つ。ここまでで反論は?」
「・・・・・・・・・いえ、とりあえず『仮定』を続けて下さい」
「しかしその現場を通りすがった阿散井がたまたま見てしまった。当然、それはまずいと考える。そして、スパイスを大量に入れたカレーを食わせ、辛さのあまり拒絶反応を起こさせて口封じをした。ご丁寧に記憶まで改ざんしてな」

「だが・・・日番谷くん、それが卯ノ花隊長だっていう証拠は? 今の話を聞いていると、犯人が彼女だという理由が分からないんだが」
困惑気味な藍染の質問に対し、日番谷は乱菊を見て頷いた。
「これが証拠の一つ目です」
乱菊が懐から、ビニール袋に入ったスパイスの瓶を取り出して皆に見せた。
「スパイス・・・? あたしもよく使うけど、何でそれが証拠になるの・・・?」
「雛森、よく見てくれ。袋の中が濡れているだろ?」
「うん。何これ」
「『肉雫口妾(みなづき)』のヨダレだ。おそらく証拠隠滅のために斬魄刀に喰わせたんだろう。しかし狛村隊長に代表されるように、動物は刺激物に敏感だ。『肉雫口妾(みなづき)』はスパイスの香りに耐え切れず吐き出した。そして仕方なしにゴミ箱に捨て置いた。台所にスパイスの空瓶が捨ててある、その状況自体は特にいぶかしむべき事態じゃないしな。・・・特に、貴方は『他の証拠隠滅』に絶対の自信があったでしょうからね」
日番谷は、『他の証拠隠滅』、という点に力を入れて説明した。
「・・・違うと言い張るのならそれでも結構ですが、その場合、コレは鑑定のために技術開発局に送らせてもらいます。もし『肉雫口妾(みなづき)』の体細胞が検出されなかったら、その時は潔く謝ります」
「・・・・・・・・・ッ」
卯ノ花は何も言わなかったが、その眉根がわずかばかり寄せられたのを日番谷は見逃さなかった。

そして、たたみかけるように、
「ついでに貴方の羽織も拝借していいですか? お忙しいようだから随分と汚れていますが、そこから薬品と患者の体液しか検出されなければそれでよし。もしも・・・このスパイスと同種の香辛料が検出されれば、貴方が犯人である可能性はぐっと高くなる。・・・それが証拠の二つ目」
日番谷の言葉に、卯ノ花の眉間にはっきりと皺がよった。
「面白い推理ですね。・・・それで、私はどうやって阿散井副隊長の記憶をすりかえたんでしょう?」
そして感情を努めて消した声で、訊いた。
「・・・さて、そこが俺がさっき言った『他の証拠隠滅』だ。おそらく貴方は・・・記憶置換神機を使ったんでしょう」(※コミックス1巻参照。ルキアが織姫に使ったものです)

「で・・・でも日番谷くん、記憶置換神機って、悪用しないように規制はあるけど誰にでも手に入るものじゃない?」
「雛森くんの言う通りだ。決して卯ノ花隊長だけが使用している訳じゃない」
「お前らがそう言うのももっともだ、藍染、雛森。・・・だが使用したのが卯ノ花隊長だという証拠がある」
「「証拠?」」
「阿散井が残したメッセージだよ。無意識に残した『もり』だ」
「「・・・はい?」」

「阿散井が見た幻というのは、『朽木ルキアが特盛りになって出てくる』・・・という、奴にとって一方的にオイシイ内容だったそうだ。それを見て、阿散井は『もり』を『盛り』としてダイイングメッセージを書いた。・・・俺が気づいたのはそこだよ。幻の内容は、『森』でも『モリ』でもなく、あくまで『盛り』だった」
「しかし・・・あくまで幻であるなら、その中身は関係ないんじゃないかい? 『森』だろうが『盛り』だろうが」
「大有りだよ、藍染。『惚れた女が自分の好みの姿になって出てくる』なんて、都合のいい幻を見られる記憶置換神機の燃料は『ランクSSS(トリプルエス)』位しかない。そうだな?」
「・・・・・・・・・あ!!
ようやく分かった、という表情の藍染をニヤリと満足げに見やって、日番谷は卯ノ花に向き直った。
「ここで問題だ。通常、一部の例外を除いてそんなランクの高い燃料の使用許可は出ていない。・・・その例外とは、一体なんでしょうね? 答えてくれますか、卯ノ花隊長?」
「・・・・・・・・・鎮痛、です」
沈黙の後に、苦々しげな答えが帰ってくる。
「そう、鎮痛目的に使われる場合だ。負傷した死神に対する医療行為上、苦痛を和らげる為に『ランクSSS』はしばしば利用される。恒常的にそんなランクの記憶置換神機を持っているのは、俺の知る限り・・・四番隊隊長・卯ノ花烈。・・・貴方だけだ」
「・・・・・・・・・」
「・・・認めてくれ。俺は何も貴方をつるし上げる目的で捜査してきた訳じゃない。事情があるなら助けになりたいんです」
は、と大きく息をついて、
「・・・そうです、日番谷隊長の仰る通り、わたくしが阿散井副隊長を気絶させ、カレーを持ち去った犯人です。記憶置換神機を使ったので明るみにでないと思っていましたが・・・よくおわかりになりましたね、日番谷隊長」
「貴方は自分の持つ記憶置換神機の有効性を知りすぎていたんですよ、卯ノ花隊長。・・・そしてその自信こそが、命取りになった」
どこか晴れ晴れとした表情の卯ノ花―――今回の騒動の犯人に、日番谷は寂しそうに微笑んだ・・・。
その様子に、居合わせた五番隊の二人と朽木隊長、そして乱菊は事件が解明されたと安堵の息をついた。

・・・だが。
しかし。

状況に対応できず、困惑する男が一人・・・。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
今回の被害者、阿散井恋次である。
「阿散井?」
「阿散井副隊長?」
「馬鹿な・・・それじゃ、あの『特盛りルキア』は存在しないっていうのか・・・? 嘘だ・・・誰か・・・幻じゃないって言ってくれえぇ・・・っ!!
「 幻 だ ろ 」(←日番谷)
「 幻 で し ょ 」(←乱菊)
「 幻 な ん じ ゃ な い か な 」(←藍染)
「 幻 だ よ ・・・ 」(←雛森)
「 幻 で あ ろ う 」(←朽木白)
「 幻 で す わ 、この記憶置換神機を使った。大体、朽木隊長の妹さんほどの ま な 板 が突然マッキンリーやキリマンジャロになる訳がないのですから・・・」(←酷い宣告です卯ノ花隊長)
「 う 、 う わ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ん ! ! ! (号泣)」



  ○同時刻・現世・浦原商店○


・・・ふぁっくしょん!! ・・・うー。義骸の分際で風邪を引くとは、浦原きさま、欠陥品使わせおって・・・(怒)」
「えー? そんな筈ないんスけどねぇ・・・。超高性能特性義骸が風邪なんて引くワケがないんだけどなぁ・・・(汗)」




  ○ふたたび四番隊綜合救護室○



「・・・でもね、日番谷隊長、分かっていただきたいのですけれど・・・」
「故意じゃなく事故だったって言うんでしょ? 貴方が犯人だと思った時から、多分そんなトコじゃないかと思いましたよ。『癒しの女神様』とみんなに慕われる四番隊隊長が、悪人だとは俺も思ってない。・・・ただ、事情はきちんと話して貰えますか?」
「はい・・・・・・」
心底申し訳無さそうに、卯ノ花は全ての事情を語り始めた。
それによると・・・

 十番隊に用事があった卯ノ花は、たまたま厨房の前を通り過ぎ、カレーの良い匂いを嗅いだ。
 以前から『噂の十番隊絶品カレー』を再現して、自隊の隊員達に振舞ってやりたいと思っていた彼女は
 悪いとは思いながらも、無人の厨房に入り、カレーを味見。
 しかし、そのカレーは異様に 甘 か っ た 。(←総責任者の嗜好に合わせて極甘口

「そうそう、ウチのカレー、美味しいんだけどお子様味覚の隊長がいるからちょっと甘いのよね〜・・・」
「 お 子 様 は 余 計 だ 松 本 ( 怒 )」

 『ちょっと甘すぎるんじゃないかしら』、と考えた卯ノ花は、手近にあったスパイスの瓶を手に取る。
 『おせっかいかも知れないけど、ちょっとだけ・・・』少量を振り入れようとしたその時。
 『どうしたんスか卯ノ花隊長!(ポンッ)』・・・と、恋次が登場。肩をたたかれた卯ノ花の手から
 スパイスが全て鍋に零れ落ち・・・。
 驚く卯ノ花を尻目に、『おっ美味そうなカレー! ちょっと味見を・・・!』と、止める間もなく
 恋次はスパイスたっぷりになった激辛カレーを口に入れ、案の定辛さに悶絶。それはもう悶絶。
 その苦痛を見ていられなくなった卯ノ花は、つい常備している鎮痛用記憶置換神機を使用。
 (そのお陰で恋次は幸せな幻に包まれ、夢の世界へ・・・)
 このまま事が明るみになってしまうと、ただでさえ忙しく働いている自隊の隊員達にも迷惑がかかってしまう、
 そう考えた卯ノ花は、全てを隠蔽するという苦渋の選択をした。
 証拠隠しの為に空いた瓶を『肉雫口妾(みなづき)』に飲ませようとしたが、あえなく吐かれる。
 記憶置換神機の性能の良さを知っていた彼女は、多分ここからバレはしないだろうと、それを普通に棄てた。
 そして件の激辛カレーを持ち(このとき羽織にカレーが少しだけ撥ねたため、後の仕事中、卯ノ花は
 意図的に薬品等で羽織を汚した)、『肉雫口妾(みなづき)』の背に乗り、目撃されないように気をつけて
 自隊に帰った。その後、平静を必死に装いつつ、犯人探しをする日番谷たちの対応をした、という訳だった。
 嘘に嘘を重ねるのは忍びなく、恋次の検死(←※死んでないけど)等の報告は、全て真実を述べて・・・。

「・・・そういう、わけだったのか・・・」
「本当に申し訳ありませんでした、皆様・・・特に阿散井副隊長・・・」
「い、いえ、いいんスよ卯ノ花隊長。俺がこうなったのは自業自得みたいなモンだし、・・・それに、幻だったけど良いモン見させて貰いましたし・・・(ちょっと泣)」
「そう言っていただけると救われます・・・ありがとうございます」
「犯人捕まえた後は朽木隊長に任せるって俺言いましたけど、お咎めはナシでいいですよね?」
「無論だ。そもそもが恋次の不始末。却って卯ノ花隊長に謝らねばならない位だ」
「良かった。・・・これでようやく終わりか」


  ぱ ち  ぱ ち  ぱ ち  ぱ ち


事件がひと段落し、満足げに笑った日番谷の耳に、拍手の音が届いた。
「流石だね、見事だったよ日番谷くん」
「藍染・・・」
「そしてお礼を言うよ。真犯人を当ててくれたお陰で、僕の無実も証明して貰えたからね。ありがとう」
「いや・・・俺も、疑って悪かった」
「それはこちらもだ。君が犯人の可能性もあるだなんて失礼なことを言って申し訳ない。許してもらえるかな」
「もちろんだ」
「ありがとう」


握手するそれぞれの上司を見て、乱菊と雛森はほっと息をついた。
「これで、一件落着、かしらね?」
「良かった・・・日番谷くんと藍染隊長が和解して・・・」


「あと、一つ質問があるんだが、いいかな?」
「何だ?」
「阿散井くんが幻覚を見たことが分かった時、どうして僕を疑わなかったんだい? 僕の斬魄刀『鏡花水月』の能力が『敵に幻覚を見せる』というのは知っていた筈だろう? それを知っていれば真っ先に僕を疑って然るべきだったと思うんだけど」
「ふ・・・そうだな。確かにお前の斬魄刀でも口封じのための幻は見せられただろうな。その意味ではお前は最有力容疑者候補だった」
「じゃあどうして僕への疑いは晴れたのかな?」
「それはな・・・。どうせ 腹 黒 な お前が野郎に見せる幻なんて、どうせ『モリモリマッチョの野郎共と真夏の大おしくらまんじゅう大会』みたいなえげつないモンだろうと思ったからさ」
「 そ れ も そ う だ 」(即答)

「あの・・・そこは否定するトコじゃないんですか? 藍染隊長・・・(泣)」
「・・・桃。(上司が腹黒で)辛いこともあるかもしれないけど、頑張ってね・・・」

まだひたすら六番隊の二人に謝る卯ノ花に、日番谷は声を懸けた。
「・・・で、卯ノ花隊長、持って帰っちゃった件の激辛カレーはどうしたんです?」
「あ、アレですか。私の私室に置いてあります。・・・でも、阿散井副隊長が昏倒するほどスパイスを入れてしまいましたし、食べるワケには・・・」
「といっても、食べ物なのに変わりはないし、捨てるのも勿体無いわよね・・・」
どうしたらよいかと頭をひねる卯ノ花と十番隊のツートップだった・・・。

そこに、天使の声が・・・。
「私が責任を持って預かろう」
「「「朽木隊長!?」」」
「卯ノ花隊長、そのカレー、本当に辛いのですね?」
「え、ええ・・・。とても人の食べられるようなものでは・・・」
「それは な お 結 構 (←無表情でも目がキラキラ)。なに、私は辛いものに強いのです。丁度、恋次の不始末で本日は残業しますので、夜食としてその激辛カレー、六番隊が頂いても宜しいですか?」
「え、ええ・・・もちろん・・・(汗)」
「日番谷隊長も、それで宜しいか?」
「は、はあ・・・。朽木隊長がそれでいいんなら」
「それでは有難く頂いて行くとしよう。喜べ恋次、今日の残業は美味い夜食がつくぞ」
「その激辛カレーで俺は気絶したんですってば! 食べられませんよ、俺ー!!(泣)」
「心配するな。リンゴとハチミツを入れればまろやかになるらしい」
入っているスパイスの総量は変わらないじゃないですか!!(叫)」

「え〜と・・・。これで、いい、のか・・・?」
「いいの、でしょうか・・・?」
「・・・まあ、せいぜい恋次がまた卯ノ花隊長のお世話にならないよう祈っときましょ・・・」
今回の被害者が再び被害者にならないように三人は祈った・・・。

「あ・・・、っと。ちょっと提案があるんだが、卯ノ花隊長」
「?」
「ちょっと耳を拝借。・・・(ごにょごにょごにょごにょ)・・・」
「え・・・っ、よろしいんですか?」
「ああ。存分に使ってやって欲しい」
驚く卯ノ花にニッと微笑む日番谷を、乱菊は不思議そうに見つめていたが・・・そこで、あることに気がついた。
「ところで、卯ノ花隊長は今日の午後、どんな用件でウチの隊に来ていたんです?」
「ああ、そうそう、一昨日締め切りだった四番隊からの書類を頂きに伺ったんでしたの。もう出来てます?」
「  」
「・・・松本・・・まさか・・・てめえ・・・(汗)」
「・・・エ、エヘ☆ 忘れてましたぁ・・・っ!」

「昨日締め切りだった筈の我が六番隊からの書類も頂きたいのだが」

「 「 ・・・ あ ( 汗 )」 」

その時。


  キ ー ン  コ ー ン  カ ー ン  コ ー ン


「お、5時だ。業務時間終了だな。しゃあねえ松本、四番隊と六番隊の書類、残業して仕上げるぞ・・・」
「・・・はーい・・・(泣)」

そうして肩を落とす二人の耳に、さらに放送が・・・

「・・・業務連絡です、日番谷冬獅郎十番隊隊長。日番谷冬獅郎十番隊隊長。
山本元柳斎重國総隊長からの伝言をお伝え致します。

『日番谷や、今日締め切りだった書類は一体どうしたかの? 早 よ 提 出 せ い ! ! 』」




        「 「 ・・・ ・・・ あ ” ぁ ・・・ ・・・ ・・・ ッ (泣) 」 」



・・・こうして、『 今日の残業決定 + 明日の休日出勤決定 』に、涙に暮れる今回の功労者二名であった・・・。




  『 十番隊事件帳・甘い誘惑 』 〜 あのカレーを食べるのは朽木隊長 〜 ・ 完

        (↑サブタイが変わってるのは気にしない気にしない)









































  ☆ おまけ ☆




  ○十番隊隊舎執務室(23:06PM)○


「隊長ぉ〜、この書類の山、いつになったら片付くんですか・・・(泣)」
「うるせえ。口動かしてる暇があったら、手ぇ動かせ、手を(怒)」

そろそろ深夜にさしかかろうという時刻。
十番隊隊舎・執務室ではまだ明かりが灯り、日番谷と乱菊が必死に一番隊・四番隊・六番隊に提出する書類を仕上げていた・・・。

少しむくれた様な表情で、黙々と書類の山を片付ける日番谷を覗き見ながら、乱菊はぽつりと呟いた。
「・・・骨折り損のくたびれもうけ、とは、思っていないんでしょ?」
「・・・まぁな」
予想していた通りの名探偵の答えに、彼女は気づかれないように苦笑いをする。



――――あの時。
日番谷は卯ノ花にこっそりと耳打ちした用件とは、

『今からうちの竹添を四番隊に貸し出すから、カレーの炊き出しをさせるといい』

・・・という、卯ノ花にとって有難いことこの上ない提案だった。
この命令によって竹添は自隊の業務を後回しにて、四番隊舎にて大量の絶品カレー(辛さは大人向け仕様)を調理。
味の評判は上々で、日々激務に追われる救護隊員の英気を養っただけでなく、怪我により収容されていた十一番隊員をも癒したという・・・。

その代わり、竹添の不在により日番谷と乱菊の仕事量は か な り 増え、しかも夜食ナシで空腹のまま残業することになったのである・・・。(←夕食は雛森が持ってきてくれてた高級水ようかんだけだった)(合掌)



「全くお人よしなんだから・・・」
「・・・こんな隊長の下で働くのが嫌だったら、いつでも他隊に異動していいぞ」
「冗談。あたしはね、ここが居心地いいんですよ。お人よしの天才少年の下にいるのがね」
「・・・へっ。言うと思った」
「あ。異動する気ないの分かってて訊きましたね? ・・・ったく、こ憎らしいんだから・・・」
「お前に言われたくねぇ。『この先何があっても信じてます』だなんて、外堀埋めたも同然じゃねえか。尋常じゃないプレッシャーかけやがって。お陰でガラにもなく頑張っちまった。・・・こ憎らしいのはお互い様だ」
「ごもっとも」

くっくっく、と、込み上げる笑いを堪えつつ、乱菊は書類の山に再び手をつける。
「笑ってんじゃねえよ」
そういう日番谷の声も笑っている。
「隊長こそ」


  その後、差し入れを持ってきた藍染と雛森が見たものは、少しずつだが減っていく書類と、
  妙に楽しそうにそれらを決済する二人の姿だった・・・。





 Fin.


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